TOP > スペシャル特集 インデックス > 「昭和ジュークボックス」インデックス > 第3回 演歌特集
日本人の心のふるさと〜誰もが口ずさんだあの曲。 歌の心は時代を越える。そっとあなたに寄り添う昭和演歌をもう一度!
数年前、昭和の時代に演歌のフィールドで活躍してきた方々を取材したことがある。作詞家として多くの名作を残したなかにし礼さんや、現在も活躍されている大御所作曲家の弦哲也さん、あるいは当時のレコード会社の方々など。 で、のべ十数人におよんだこのときの取材が、とても勉強になった。なぜって、簡単にいうなら「どの世界にも、本気で音楽と向かい合っている人たちがいるんだな」と実感できたから。まー当たり前のことなんだけど、ほとんど触れる機会のない領域だったものでことさら新鮮だったのだ。 昭和37年生まれなので世代的な影響もあるとは思うが、現在の僕は演歌の近くで生きているわけではない。幼いころから親しんできた音楽も洋楽がメインだし、むしろ演歌は距離のある音楽だった。いまだってそうだ。好きな演歌もいくつかあるのに、「演歌っていいよねー!」と公言するにはいささかの抵抗を感じてしまったりもする。 しかしそれでも否定しきれないのは、昭和の演歌には子どもにさえ訴えかける“なにか”があったことを皮膚感覚として知っているからだ。「演歌が好きだなんて言いにくいなー」と体面を気にするようになったのは大きくなってからで、小学生時代は小柳ルミ子の「わたしの城下町」や森進一の「おふくろさん」も、ソルティー・シュガーの「走れコウタロー」とか天地真理の「水色の恋」と同じ感覚で聴けていた。水前寺清子も森昌子もドリフターズの「8時だヨ!全員集合」のステージで歌っていたが、特に「嫌だな?」とも思わなかった。そのころ演歌は「あって当然のもの」で、他の歌謡曲と同じように幅広い世代がそれらを無理なく受け入れていたからだ。 たしかに、情報量が限られていたという事情はあるだろう。だが、それ以上のなにかが昭和の演歌にあったのもまた事実。子どもにさえ訴えかける歌詞とか、無意識で口ずさめるメロディとか。いわば大衆音楽に不可欠なフック。そういう大切なものが、ひとつひとつの歌に備わっていたような気がする。だからこそ、年端のいかない子どもにも響いたということなんじゃないかな。たとえそれが、「♪瀬戸ワンタン 日暮れ天丼」みたいに替え歌として消費されただけだったとしても。 だからといって僕が今後、演歌一直線な人生を歩む可能性は著しく低いと思う。けれどもそれらは今後も、演歌である以前に“昭和の歌”として記憶のどこかで息づいていくだろう。僕の世代のみならず、あの時代を生きてきたすべての世代の方々も同じ気持ちなのではないだろうか。 (Text/印南敦史)
Juke Box セレクション
五木ひろし 『全曲集 スーパーヒットコレクション』 1996年 Release
ダウンロード価格 トラック 各\210(税込)
たしか小学5年生のときのことだ。地元の消防署の防災イベントに、あの五木ひろしがやってきた。よくある「一日署長」とか、そういうやつで。ふだん五木ひろしの音楽を熱心に聴き込んでいたというわけでもないのに、当時の僕らは必要以上に興奮した。まぁ、単なるミーハー心ですよ。クラスメートが「♪よっこっはっま たっそっがっれ」と真似をして先生にハタかれてたなー。しかしまぁとにかく、五木ひろしはそのくらい、当時から大スターだったのだ。男前ってわけではないけれど、どこか愛嬌のある表情から、適度な(その“適度さ”加減が絶妙だった)艶っぽさを持った歌唱表現まで、すべてに嫌みがなかった。レコード大賞受賞曲「夜空」のキャッチーなムードとか、その持ち味はいまなお新鮮。それから、2度目のレコード大賞受賞曲「長良川艶歌」を引き合いに出すまでもなく、日本的な情緒表現も抜きん出ていましたね。
森進一 『森進一 セルフカバー・アルバム』 2005年 Release
ダウンロード価格 トラック 各\350(税込)
上で触れた演歌取材の際、多くの関係者から「演歌というと、冬の北国ですから」というコメントが出た。「失恋した男が、北風のなかでコートの襟を立てるようなイメージですよね」って、そうか。たしかに明るい南国演歌ってあんまりピンとこないもんなあ。で、北国の演歌と言えばすぐに思い出すのが森進一。彼は北を題材にした多くの演歌を歌っているが、なかでも強い印象を投げかけたのが日本レコード大賞、日本歌謡大賞を受賞した昭和49年の大ヒット「襟裳岬」だ。同じく代表曲として有名な「おふくろさん」や「港町ブルース」にもいえることだけれど、一度聴いただけで彼のものとわかるハスキーな声質と情感豊かな表現は、ときに演歌の領域を超えた世界観を生み出す。だから(あんまりステレオタイプな世界には浸りたくないんだけど)、ひとりでしんみり飲みながら聴いたりすると、やっぱり染みちゃうんですよねー。演歌かどうかではなく、それが森進一の歌だからなのだと思う。
都はるみ 『都はるみ全曲集/螢の宿』 2007年 Release
ダウンロード価格 アルバム \2,000(税込) トラック 各\200(税込)
76年にレコード大賞を受賞した「北の宿から」は寂しげな情感に満ちているし、「涙の連絡船」にしたって悲しさをモチーフにした曲だ。つまり必ずしも明るい歌ばっかり歌ってきたわけじゃないんだけど、都はるみの歌には一環した前向きさがある。おそらくそれは、声量と表現力の力だ。たとえば64年の日本レコード大賞新人賞受賞曲「アンコ椿は恋の花」。デビューと同年に存在感を強烈にアピールしたあの曲なんか、まさに真骨頂という感じ。「♪アンコォ〜」という部分はその後数年にわたり、子どもたちもおもしろがって真似してましたよね。つまり、彼女にしか表現できない唸り節にはそれくらい強烈なインパクトがあったということ。その唸りを含め、いま聴きなおしてみても声量の豊かさには圧倒される。さっきも聴いてて、サビの部分で思わずアンプのボリュームを下げちゃったぐらいですから。もちろん、それほどまでに迫ってくるからですけど。ホント、うまい人だなあと思う。
八代亜紀 『八代亜紀全曲集/立ち呑み 小春』 2007年 Release
演歌としての完成度は、これ以上ないというほど際立っている。しかし、それだけではない。きわめて安直な表現であることを承知で言わせてもらうならば、八代亜紀の歌は日本のブルースだと僕は信じて疑わないのだ。たとえば、代表曲である「舟歌」ですよ。阿久悠による歌詞表現の素晴らしさも大きく影響しているとはいえ、(同じ阿久悠作のレコード大賞受賞曲「雨の慕情」などにもいえるが)あの映像的な世界を歌にできる人はおそらく彼女しかいなかったはずだ。それからもうひとつ。「立ち呑み『小春』」とか「友の焼酎(さけ)」とか「お酒を飲んで…」とか、「舟歌」意外にも八代亜紀には酒の歌がたくさんありますよね。これらもまた、彼女が歌うからこそ独特の空気が生まれる。“酒のお供には八代亜紀の演歌が不可欠”と断言するには僕は若すぎるけれど、それでもたまにはどっぷり浸って酔っぱらいたい気分になったりします。そういう人、多いんじゃない?
小林幸子 『小林幸子全曲集 大江戸喧嘩花』 2006年 Release
ダウンロード価格 トラック 各\200(税込)
あまりにもインパクトがありすぎるぶん、いまや小林幸子という名を聞いてすぐに思い出すのはNHK『紅白歌合戦』での常識を逸脱した衣装だったりする。けれど言うまでもなく、その存在感の大前提となっているものは圧倒的な歌唱力だ。なにせ「うそつき鴎」でデビューした63年ってわずか10歳で、当時から天才少女と認められていたわけですからね。しかし、にもかかわらず初の大ヒット「おもいで酒」でレコード大賞最優秀歌唱賞を受賞し、初めて『紅白歌合戦』に出場したのが79年のこと。いわば演歌歌手の厳しさを絵に描いたような苦労人であるわけだけれど、そのぶん歌唱表現にも他の追随を許さない深みがある。「おもいで酒」に続くヒットとして有名な「とまり木」や、美樹克彦とのデュエット・ナンバー「もしかしてPART2」などは、まさにその好例といえるかもしれない。あ、それから「雪椿」の節まわしからも、さすがの実力者って感じの風格が感じられますね。
細川たかし 『細川たかし全曲集/満天の船歌』 2007年 Release
細川たかしといえば、なにを差し置いてもレコード大賞を受賞した大ヒット曲「北酒場」。作詞家・なかにし礼の最大のヒット作でもあるこの曲には、テレビ朝日「欽ちゃんのどこまでやるの」の挿入歌として誕生したという逸話がある(知ってた?)。しかも当初は曲の長さが整備されないまま放送がスタートしたため、細川も戸惑ったのだとか。そのときの彼の表情を思い浮かべながら聴きなおせば、すっかりおなじみの曲も違って聞こえるかも。それに、“陰”が基本であるともいえる演歌界にあって、細川の個性は貴重だ。前向きな“陽”のパワーをまき散らすかのようなキャラクターが民謡仕込みの歌唱力と相まって、「細かいこと気にしないでどーんと行くかー!」と思わせてくれるような快活さを生み出しているからね。「浪花節だよ人生は」あたりは、その最たる例といえるのではないでしょうか。決して明るい内容ではないはずなのに、「矢切の渡し」すらパワーを与えてくれるから不思議。
島倉千代子 『島倉千代子全曲集/おかえりなさい』 2007年 Release
いまでは、小泉元首相も答弁で引用した「人生いろいろ」がいちばん有名なのかな。でも古くは55年に「この世の花」でデビューしたときから、島倉千代子は独特のヴィブラート唱法を武器にポピュラリティを獲得していたのだった。幼少時から晩年までの間にかなりの苦難を乗り越えてきた人だけれど、持ち前の天然キャラは余計な苦労を感じさせない。そこが魅力でしょうね。
青江三奈 『<SPECIAL PACK>青江三奈』 2000年 Release
演歌と限定してしまうより、やっぱりイメージは「ブルースの女王」ですか? でも青江三奈は、昭和の演歌を語るうえでははずせない存在だと思えてならない。というよりも、日本のブルースというべき演歌の可能性を極限まで突き詰めた歌い手というべきかな。代表曲として名高い「伊勢佐木町ブルース」や「恍惚のブルース」を聴けば、誰でも昭和の風景を思い出すはずだ。
森昌子 『森昌子 Premium Single Collection vol.1』 2006年 Release
「花の中三トリオ」のひとりとして森昌子が登場したとき、そのキャラに驚いた人は少なくないはず。アイドルと呼ぶには地味すぎたし、山口百恵、桜田淳子とは決定的に違う個性の持ち主だったからだ。しかし歌唱力に関しては、当時からずば抜けていましたね。その後、王道演歌歌手として「越冬つばめ」に代表される数々の名曲を残したわけだし、結果的に路線は間違っていなかったのだ。
北原ミレイ 『北原ミレイ全曲集〜誘惑〜』 2007年 Release
阿久悠作詞のデビュー曲「ざんげの値打ちもない」は恐かったですねー。でも、「石狩挽歌」もまた強烈だ。なかにし礼が自らの体験を落とし込んだもので、彼自身も「一番好きな作品」なのだとか。というだけあって、それが北原ミレイによって歌われるとものすごい生々しさを生み出したのだった。さすがはジャズやカンツォーネのバックグラウンドを持っている人です。
坂本冬美 『坂本冬美 2002全曲集』 2001年 Release
大作曲家・猪俣公章のもとで修行を積んだだけあって、87年に「あばれ太鼓」でデビューしたときから坂本冬美は実力派として認知されていました。88年の『紅白歌合戦』でも披露された「祝い酒」も、堂々たる歌いっぷり。そうかと思えば細野晴臣、忌野清志郎両氏とHISというユニットを組んでみたり、演歌の枠に収まり切ることのない柔軟性を持った人だよなー。
大川栄策 『大川栄策名曲選/稲妻』 2007年 Release
なんてったって古賀政男の門下生。デビュー曲の「目ン無い千鳥」が69年6月で、以来13年を経た82年に出した「さざんかの宿」で大ブレイクしたのだから、苦労人がどうこうという以前にこれはもう偉業というしかありませんな。きちんと基盤のある人はやっぱり違う。打たれ強い。ゆったりとした包容力を感じさせる歌からは、そんな本質がにじみ出てくるようだ。
中条きよし 『プレイバックシリーズ 中条きよし』 1987年 Release
中条きよしと聞いて、時代劇『必殺』シリーズの勇次役を思い出す人も多いはず。彼の演技には、見た人に強烈な印象を残すものが備わっていましたからね。でもやっぱり演歌歌手としての実力も見逃せず、その最たるものが日本レコード大賞を受賞した大ヒット曲「うそ」ということになるでしょう。昭和歌謡の象徴ともいえる楽曲の親しみやすさも大きなポイントでした。
新沼謙治 『新沼謙治全曲集/旅路』 2007年 Release
「嫁に来ないか」「ヘッドライト」「北挽歌」など数々のヒット曲で見せる実力の確かさもさることながら、新沼謙治といえば持ち前の天然キャラと東北弁。つまり歌唱力と性格の双方から、幅広い支持を獲得することに成功した演歌歌手だといえる。上記ヒットからは早くも30年の歳月がすぎているわけだけれど、汚れのない澄み切った歌声には時代を越えた味がありますね。
堀内孝雄 『ザ・ベスト〜ふたりで竜馬をやろうじゃないか〜』 2005年 Release
「君のひとみは10000ボルト」を歌うたびに「オーイエイ!」を連発しまくっていた堀内孝雄が、アリス解散後に演歌歌手に転身したときにはずいぶん驚かされたもの。しかし考えてみれば、あの強烈なキャラとソウルフルな節まわしは、まさに演歌向きだったのかもしれないなあ。ニューミュージック仕込みの演歌歌手って、かつてのファンを演歌に巻き込むためにも効果的な手段かも。
高山厳 『スーパーベスト』 2000年 Release
のちに「いちご白書をもう一度」を大ヒットさせるバンバンを経て、脱退後にソロ・デビユー。91年になってから演歌歌手に転向したというキャリアの持ち主が高山厳だ。でも日本レコード大賞、全日本有線放送大賞を受賞した「心凍らせて」を耳にしてみれば、この路線変更にも納得できようというもの。堀内孝雄とはまた異なる角度から、フォーク経由の演歌世界を描き出している。
吉幾三 『恋歌』 2006年 Release
なにしろ芸名からして色物っぽいし、初期のヒットが「俺はぜったい!プレスリー」とか「俺ら東京さ行ぐだ」ですから。以降低迷期をすごした理由もわからなくはない。けれどその後の大ヒット曲「雪國」が言い表しているように、吉幾三は演歌歌手としてのポテンシャルを充分に備えた歌い手だ。ちなみにこの曲に、“ブルース・バージョン”があるって知ってました?
羅勲児 『全曲集』 1994年 Release
羅勲児といえば、いわずと知れた韓国歌謡界のトップ・アーティスト。しかし韓国歌謡がどうという以前に、彼の歌には演歌ファンを一発で納得させる魅力が凝縮されている。いい例が、チョー・ヨンピルでおなじみの「釜山港へ帰れ」。この表現力は並じゃありませんな。さらには「黄色いシャツ」などに顕著な、日本演歌にはない微妙なグルーヴ感にも捨てがたい魅力が。
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そもそも、こまどり姉妹や井沢八郎は基本中の基本といえる? だいいち美空ひばりや北島三郎がそうであるように、ここで紹介した以外にも大物というべき演歌歌手はたくさん存在する。絶対的なものって世代によっても違うから、水前寺清子こそが演歌の神髄だという人もいれば、殿様キングスを聴くといまだにホロッとくるんだという人もいることだろう。それに、そもそも日本人ならではの感性を軸に構成されている以上、演歌という枠には大きな幅があるといえるのだと思う。有名か無名かということよりも、その曲が流行って魅了された時期に、自分がどんな人生を送っていたかが大きな意味を持つわけですね。 だから21世紀のこの時期に、ふと立ち止まって昭和の自分を思い起こすという意味でも、ここで紹介させていただいた楽曲を耳にしていただくのも悪くはないのでは? 40代の僕自身、この作業を通じて様々な記憶を蘇らせることができましたから。それと余談っぽくなっちゃうけど、「レア演歌」をこの機会に掘ってみるのも楽しいかもしれませんぜ。一節太郎の唯一のヒット曲「浪曲子守唄」とか、金沢明子の「イエローサブマリン音頭」とか、角度を変えてみればいろんな曲を思い出すことができると思うから。
こまどり姉妹 「浅草姉妹」 1959年 Release
井沢八郎 「あゝ上野駅」 1964年 Release
宮路オサム(殿さまキングス) 「なみだの操」 1998年 Release
宮史郎(ぴんから兄弟) 「女のみち」 2005年 Release