1977年にマリ&レッド・ストライプスでレコード・デビュー。以来、30年に渡ってジャパニーズ・ポップスの第一線で活躍してきた杉真理。スマッシュ・ヒットとなった「バカンスはいつも雨(レイン)」が収録されていた『Stargazer』や、自らのルーツであるビートルズへの憧憬を再認識させた『Ladies & Gentleman』などの多くの名作を残し、日本の“ポール・マッカートニー”たるメロディ・メイカーとしての才能をミラクルに発揮してきた。30周年を記念する新作『魔法の領域』では、これまでのキャリアを辿るように、BOXやピカデリーサーカスは勿論、堂島孝平、伊藤銀次、姫野達也、村田和人、竹内まりや、須藤薫、他、大勢のゲストを迎えて、音楽の魔法を繰り広げている。USEN放送の「昭和チャンネル」内で“杉真理の「歌の昭和人」”という番組も持っている杉真理さんに、番組収録後に話うを伺うことができた。
デビュー30周年になりますが、新作『魔法の領域』を作るきっかけは?
ここ数年ライブとかで、いろんなミュージシャンとユニットを組んでやってたんですが、ライブだけじゃなくて一緒に曲も作ってそこで発表しようということを続けてきて、曲がたまってきたということと、30周年でアルバムを作る時に、セルフカバーとかじゃなくて、新しい曲を出したいと思っていたんです。いろんな人が参加した企画性の強いものにするとか、いくつか方法はあったんですが、単なるデュエット・アルバムとかじゃなくて、曲のクオリティで選んでいったんですね。そうして、最終的には、ゲストが沢山で企画性も後から付いてきたアルバムになったということです。一にも二にも曲がありきですから。最初からゲストをふんだんに、というつもりで作ったわけではないんです。
マリ&レッド・ストライプス、BOXやピカデリーサーカスなど、杉さんのこれまで活動を追ったような流れになっていますよね。ゲストには、杉さんのほうから声をかけて参加していただいたのですか?
そうですね。元L−Rの黒沢くんとか、「お声がかかるのを待ってましたよ」とかね(笑)。今回は一緒にやることができなかったけど、次は声をかけてくださいね、と言ってくれるミュージシャンもいっぱいいて・・・。
今回は、僕としては新しいやり方だったかなと思いますね。今までのレコーディングだと、スタジオに入る時に詞もできてない状態だったり、全員がまだ曲が見えてない状態で始めるのが常だったんですが、今回は、ステージですでにお披露目した曲が沢山入っていて、お客さんの反応も見ているし、詞もアレンジも完成している段階でレコーディングに入ったんです。全員が、この曲はどこに向いているかということがわかっているから、無駄な手探りをしないで済むんですね。向かう場所がわかっているので、より上を目指すことができた、という感じです。ライブで演奏したことのある曲だから、自分のフレーズも含めて、曲に対する愛情が強いわけです。知らない曲を、その場でパッと演奏して帰っていくスタジオ・ミュージシャンとは違って、1曲1曲に愛情がこもっていると思いますね。
曲が出来ているということで、ライブ録りに近いような部分もあるんですか?
ライブとレコーディングって明らかに違うんです。レコーディングでは、ライブで出来ないことやってやろうといつも思っているんですね。ライブでは再現できないようなことを、それこそ魔法を使ったり、できる限りのアイデアでね。「どうだ、ライブじゃ出来ないだろう」っていうものを作って、ライブの時はそれに負けないことをやる。そんな風にお互い違う方向から高め合うみたいな・・・。だいたいライブで大きい音で聴いたら、レコードなんて吹っ飛んじゃうんですよ。やっぱりレコードはレコードでしか出来ない、マジックをいっぱいやりたいと思っているので。今回の曲はライブでやった曲ではあるけど、同じことをやってもライブには勝てないと思うんですよ。だから、ライブでは出来なかったアイデアやマジックをふんだんに盛り込むことを考えて作りました。
自らプロデュースして、この作品で難しかった点はありますか?
難しいというよりは、楽しかったですね。楽曲を集めて、全体像としてこれが一つの絵になるだろうかと思って、ちょっと遠くから眺めてみると最後には一つの絵になっている・・・。その醍醐味を味わえた気がしますね。
杉さんにとって、コーラスに対する思いとは?
僕にとってコーラスの師匠はビートルズであり、ポール・マッカートニーなんですが(笑)、あの人達は、ほとんど音楽的な勉強とかはしてないと思うんですよ、勘だけでやってるわけですよ。勘だけでアレだけのことができるんだったら、僕にもできるかもしれない、っていうのがミュージシャンを目指した原動力だったんですね。なので、なるべく他の人がやってないようなコーラスとかアイデア・・・、ポール・マッカートニーのコーラスってホントにアイデアに溢れているじゃないですか?しかも、ウィングス時代なんか、奥さんのリンダ・マッカートニーがコーラスに参加してるでしょう。下手なんだもん、リンダ(笑)。でも、下手だけど、ポールのアイデアでやるとリンダの歌も味が出てくるじゃないですか!それぐらいにできるっていうのが、僕がお手本にしているところで。だから、僕はスタジオ・ミュージシャンのコーラスは一回も使ったことがないんですよ。譜面を見てパッと歌うような音楽じゃないものを目指しているんで(笑)。コーラスなんかは特に、個性的な人達の組み合わせでないとできないようなものをやろうと思っています。僕なんかも、経験でいろいろわかってきた部分もありますが、基本的には勘だけでやってきたわけで、勘だけでやるっていうのがロックなんじゃないかと(笑)。
ビートルズ・チルドレンといわれているわけですが、はっぴいえんどについては?
はっぴいえんどは大好きでしたけど、逆に大好きな分だけ影響は受けないようにしてましたね。日本のアーティストからは影響を受けないようにしてました(笑)。そう言ってたら、大滝さんから声をかけていただいたんですよね。影響を受けたことをやってたら、大滝さんは声をかけてくれなかったんじゃないかな。違うことをやってたから、こいつ面白いなと。
松本さんの詞も、茂さんのギターも、大滝さんも、細野さんも大好きなんですけど、上の世代と僕等の世代はちょっと違うところがあるんですよね。彼等のほうがクールですよね。僕なんかハッチャキになってますから(笑)。詞のテーマにしても、彼等には、どこかそっぽを向くような美学がありますよね。パレードが来てもそっぽを向いてるみたいな・・・、僕なんかは、喜んでついていちゃうほうですから(笑)。
大学時代に竹内まりやさんと一緒にバンドをやってらしたんですよね?
まりやは僕よりも二つ下で、同じサークルに入ってきて、僕のバンドが好きだったらしくて、溜まり場でビートルズとかよく歌ってました。「まりやちゃん、コーラスが上手いから、僕らのバンドでコーラスやれば」ということで、一緒にやってたんですね。僕がデビューしたときも手伝ってくれてて、それで僕が病気で一年ぐらい休学してたときに、まりやがデビューしたんですね。マリ&レッド・ストライプスの2枚目が出た後くらいかな・・・。
まりやさんが最近、「NEVER CRY BUTTERFLY」をカバーしましたね?
まりやは昔からピカデリーサーカスが大好きで、私も男だったら入りたいって言ってたくらいなんです。「Never Cry Butterfly」をライブで聴いて、「あれはいい曲よね〜。いつか歌いたいんだけど、でも私なんか・・・。ピカデリーみたいには上手く歌えないけど、自分なりに歌ってみたい」と言っていたので、「あ、いいんじゃない?」と(笑)。
昨年のパイロット来日公演で松尾さんを発見したのですが(笑)、ビートルズや、その影響を受けたパイロットやバッド・フィンガー、ELOなどブリティッシュ・ロック・バンドからの影響を、いろんな曲に散りばめたくなるのは?
僕もパイロット見に行ってました(笑)。彼等もビートルズから受けた影響を出してるんでしょうけど、僕もようやく出せるようになってきたかなと、小出しにはしてるんですが(笑)。日本語でやるっていうことは凄く難しいことだし、特に僕なんか、アマチュア時代のコンテストとかで「君の音楽は日本じゃ売れないよ」とか言われてムっときてましたけど、昔はちょっと英語が入ってもダメな時代があったんですね。今は、ブリティッシュ・ロック風なメロディやビート、アレンジに日本語を乗せるっていうのがようやく普通になってきたと思うんですよ。僕の好きなビートルズやマージー・ビート系の音楽を、日本語という世界で一番美しい言葉で表現できるのは、自分の役目としては一番嬉しいことですね。日本人に生まれて良かった(笑)。
僕は洋楽志向ではあるんですが、向こうの曲って訳詞とか読むと、そんなにたいしたことは言ってないですよね。アイ・ラブ・ユーとか、アイ・ニード・ユーとか、金返せとか(笑)。たまに素晴らしい歌詞もありますけど、少ないような気がしますね。だから、日本語で書くときには、日本語でしか表現できないこと、日本語の深みを表現していかないといけないと思うし、それを向こうのビート、メロディに乗せて上手くいった時の喜びっていったらないんですよ!それこそ「レノン=マッカートニー」のように、あの二人をテーマに日本語で歌うというのはハードルは高いけど、越えたときの喜びは大きいですね。そこには、ポップスに限らず、音楽のマジックがあるんだと思うんですよ。最後の一振りで、それが降りてくるか、降りてこないかで、曲のオーラが違ってくるんですよ。何か降りてくるんですよ、それこそ“魔法の領域”になっちゃうんですけど(笑)。
これまでのキャリアの中で転機といえるものはあったんでしょうか?
ありました。たいていは人との出会いによるものですね。ビクターからソニーに移ったとき、僕は洋楽志向だったんで、歌詞は二の次のようなところもあったんですが、ソニーのディレクターだった須藤さんは詞のチェックが厳しくて・・・(笑)。『SYMPHONY
#10』に入ってる「Crying Angel」という曲で、僕は最初に‘夏の日は終わる’と書いたんですが、須藤さんに‘夏の日も終わる’にしたほうがもっと深くなるよ、といわれて、“てにをは”でこんなに変るのかと。ソニーに移って歌詞に対しての自分の考えが変りましたね。
次の転機は、『SABRINA』を作り終わった頃、BOXを組んだことですね、松尾清憲さんと。それまでは、自分のスタイルがあって、やっていくうちに手馴れた感じが出てきてしまうんですね。なんか、これって前の焼き直しかな、みたいな感じがちょっと起こり始めた時に松尾さん出会い、BOXを組んだことでそれが吹っ切れたんです。『HAVE A HOT DAY!』というつなぎのアルバムがあるんですが、自分がソロとしてやるべきことが見えたんです。それで次の『Ladies & Gentleman』につながるんですね。今、ちょうど『Ladies & Gentleman』をリマスター中なんですが、マスタリング・エンジニアの人が「これはいいアルバムですね」と言ってくれて、僕も好きなアルバムだったので、嬉しかったですね。音が良くなって、さらにグっとくる感じになってます(笑)。
そして次の転機は、ピカデリーサーカスを組んでからですね。それが97年くらいかな。僕って「出会いの才能があるって」言われたことがあるんですけど、うまい具合に人との出会いがあって、それが自分なりの転機になったりしてるんですね。これまで出会った人達が、この30周年のアルバムにも登場してくれたということは、凄く僕にとって意味のあることで、音楽って絵や文学とはまた違って、共同作業ができるじゃないですか。みんなで作れるというところが好きなんです。
「メロディの引き出しの多さ」はどの辺からやってくるのでしょうか?
そうですね・・・、そういう意味では『ワールド・オブ・ラヴ』の時に、バリ島に行ったのが一つの転機になってるのかもしれないですね。それまではやはり生みの苦しみというか、ひねり出すみたいなところがあって、アルバムができると、ヤッタと思う反面、カラカラでもう何も残っていない、とか思うんですよ(笑)。
バリ島に行って感じたんですけど、インスピレーションとかメロディとかアイデアというのは、これまでの自分の体験を組み合わせて、コラージュのようにして出すんだと思ってたんですけど、どうも違うかなと・・・。自分でも考えのつかないことが思い浮かんだりするんですよ。これはもしかしたら、何処からかやって来るものなのかと。それは潜在意識なのかもしれないですけど、自分の中でこねくり回して作ってるんじゃないっていう認識に変えたんです。何処からかやってくる、それは自分の中からなのか外からなのかわからないけど、こう考えるとすごく気が楽になったんですね(笑)。曲作らなくちゃ、作らなくちゃとばかり思っていたのが、さあ、早くくださいよ、次は何、っていう感じで、自分自身に期待できるようになった(笑)。そんなふうに楽しくなってから、引き出しが増えてきたように感じますね。自分が有限だと思って作ってると、いつか煮詰まっちゃいますけど、無限バンクとオンラインしてると思ったら、いくらでも引き出せますから(笑)。それが心理学的な作用だとしても、僕にとって大事なのは曲ができるかできないかなので、インスピレーションとかは、何処からかいただいていると思ってますけどね。
このアルバムを元に、ライブの予定もあるんでしょうか?
3月にライブをやります。そのなかでは、ソニー時代後半の曲(配信中!)も勿論やりますけど。10年、20年たっても古くならない曲を書きたいと常に思っているので、昔の曲と今の曲が並んでいても、質感は違っても遜色のないクオリティのものをやりたいと思っています。
最後になりますが、この『魔法の領域』で訴えたかったことは何ですか?
音楽教育も受けてない僕が、この30年、人に書いた曲も含めると400何曲になるらしいんです。僕からするとあり得ないことのように思えるんですが、音楽ってすごく深い森で、さまよえばさまようほど楽しいんです。思わぬところで人と出会ったり、いろんな道とつながってたりするので、皆さんも音楽の森に迷ってみたら面白いんじゃないかと。知らないうちに、魔法使いの弟子になったような気分になっている時があって、僕も魔法使いの弟子くらいにはやっとなれた気がするので、これからも魔法使いを目指して頑張っていこうと思っています。皆さんも是非、魔法の森をさまよってみてください。
杉真理の曲を聴いていると、フィル・スペクターやバート・バカラック、ブライアン・ウィルソンといったアメリカン・ポップスの偉大なソングライターや、ビートルズをはじめとするマージービートやブリティッシュ・ロックへのリスペクトがいたるところで感じられる。これは単に“インスパイア”という以上に、洋楽へのマニアックともいえる“愛情”の証しでもあろう。あなたも、杉真理の音楽の魔法にかかったら、ちょっとやそっとのことでは、その迷宮からは抜け出せない。でも、そこは夢見ごこちのポップス・ワンダーランドなので、好奇心いっぱいにして『魔法の領域』に踏み出せる。さあ、手をつないで一緒にね!
(取材&テキスト/遠藤哲夫)
