プリズムが結成された1975年は、まだ日本のクロスオーバー/フュージョン的なグループは出てきていない時代だ。その頃、和田アキラ(プリズムのリーダー)はジェフ・ベックの『ブロー・バイ・ブロー』や、アラン・ホールズワースが在籍していたトニー・ウィリアムスのニュー・ライフタイム、アル・ディメオラなどを完コピしていた。プログレッシブ・ジャズ・ロック・フュージョンとも呼べるような音楽性で、ライブを数々こなしていたプリズムがアルバム・デビューを飾るのは1977年。全国のレコード店で品切れが続出、9月24日の目黒・杉野講堂でのデビュー・コンサートでは、目黒駅までファンが行列を作ったという伝説も残している。デビュー・アルバムの帯に書かれていたキャッチ“言葉よりも繊細に、映像よりも鮮明に”は、プリズムの持つ独自な音楽性を見事に言い表している。超技巧的な演奏だけど、美しさを失わないというか、パースペクティブ(音の地平)がどんどん広がっていく。
アルバム・デビューから30年、現在進行形でプリズムを進化させてきた、ギタリストの和田アキラ氏にお話をうかがうことができた。
プリズムのデビューはまさにセンセーショナルな感じでしたね?
丁度、クロスオーバーとかフュージョンとかが流行ってきた時期で、時流に乗っったということもあるし、名前が売れたのはエリック・クラプトンの前座をやったことが大きいです。
音楽を始めたきっかけは?
最初に音楽に目覚めたのは、小学校5年くらい、ひとつ上の姉の影響です。姉がグループサウンズが好きで、僕もテンプターズとか特に好きだったですね。中学は渋谷の私立に通ってたんですけど、学校の帰り道に平尾昌章音楽教室があって、アウトキャストが練習してるのを見たり、宮益坂の斎藤楽器でやっぱりグループサウンズが練習してるのを見てるうちに、自分でもドラムを始めました。同級生に浜口庫之助さんの娘さんがいたりとか・・・。非常に音楽に興味を持ちやすい環境にあったんですね。
どんな音楽に影響を受けましたか?
ギターをやり始めるのは、一緒にやってた仲間があまりにギターが下手で、だったら俺がやろうということで・・・。本格的にギターをやろうと思ったのはグランド・ファンク・レイルロードの『ライブ』を聴いてからですね。14歳の頃かな。弾いてみたら結構上手く弾けたんですね。グランド・ファンクの後楽園球場のライブも見に行きました。テープを流してたライブですけど、すごい興奮しましたよ。そのすぐ後に、レッド・ツェッペリンも見に行って、ますますギターをやりたいという決意が固まりました。
その頃、エルクというメーカーの「カトラス」というテレキャスター・モデルが凄く欲しくて、でも高くて手が出なかったんだけど、質屋で安く売ってるの見つけて・・・。それから、レコードをコピーしまくって、ツェッペリンとか一生弾けないだろうなと思ってたんですけど、ギブソンのギターは買えないから(笑)、でも「ハートブレイカー」を1年ぐらいで弾けるようになって。その頃コピーしていたのはロック全般で、オールマン・ブラザーズから、ディープ・パープル、ロリー・ギャラガー、クリームなんか・・・、片っ端からやっていました。ロック喫茶によく出入りしてたんで、レコードは凄く聴いてましたね。ギターも上達してきたし、この先、プロになるのはどうしたらいいのかと考えるようになって・・・。
プリズム結成までの経緯は?
僕が16歳の時に、当時、稲垣次郎バンドのメンバーだったギターの松木恒秀さん(後にコルゲン・バンド〜プレイヤーズ)のボーヤにならないかという話があって、1年くらいボーヤをやるんですが、その頃知り合った深町純さんや村上秀一さん(ポンタ)とは、後で一緒にやらせていただくんですけど・・・。
あっ、ボーヤになる前なんですけど、後にルージュを結成するボーカル(阿部卓也)と一緒にバンドをやっていたんですよ。ルージュのギタリストが逆井修という奴で、エコーズとかピンクとかでもギターを弾いてましたね。その頃、チャーが入る前のバッド・シーンというバンドでギタリストだった牧野って奴は、アメリカでずっとブルース弾いてたり。狭い世界なんで、この頃にいろんな奴と出会ってますね。野呂一生とかにも。
その後、しばらくディスコとかで演奏してるうちに、リターン・トゥ・フォーエヴァーとか、ジョン・マクラフリン、サンタナとかのインストゥルメンタルものに興味を持って、キーボード(久米大作)を入れたバンドでインストをやり始めるんですね。それがプリズムの母体になるんです。その前に、パンタ(頭脳警察)がやっていたロック・ミュージカルでギターを弾いたこともありましたね。そのうち、ライブハウスの「屋根裏」がオープンして、そこに出るようになってお客さんも付いてきて、音楽プロデューサーの吉成伸幸さんと知り合ったことで、デビューにこぎつけるわけです。吉成さんの紹介で、四人囃子を抜けた森園勝敏がアルバムの制作途中から入ってくるんですね。
デビュー盤を作るにあたり、苦労したことは?
プリズムのデビュー作の録音では、スタジオで録るのが初めてだから、ヘッドフォンでやるのに慣れていないってのもあるし、テンポが早くなっていくんで、ギター弾かないで指揮者みたいになってたこともありますね。ギターは後から入れたりして(笑)。音にはこだわったほうですけど、最初の頃のやつは、世の中から消えてしまえと思いますね(笑)。まだ未熟でしたよね。1枚目の前までは、ずっとコピーしかやってなかったんで、ジェフ・ベックやチック・コリア、サンタナ、マクラフリンとか・・・。そこに吉成さんが来てオリジナルを作るということになって、直前までリハーサルでオリジナルを煮詰めていきました。他のメンバーがまだ作曲ができなくて、1枚目は僕が全曲作ったんで。目黒・杉野講堂でのデビュー・コンサート(最近CD化された)も、今聴きなおしてみると結構、青くなる部分もありますね(笑)。全く手直しとかしてないですから。
当時のクロスオーバー・シーンについて?
あの頃、同じ傾向のバンドで意識していたグループは、スペースサーカスとカシオペアですね。プリズムで最初にドラムを叩いていた鈴木徹はカシオペアにいましたから。プリズムをやるきっかけになったバンドでは、深町純&21stセンチュリーバンド(大村憲司、村上ポンタ秀一、小原礼、浜口茂外也)の影響も大きいですね。深町さんに呼ばれて、マービン・ゲイの来日公演の前座でパッショナータ(「卑弥呼」というシングルを出していた)っていう女性グループのバックをやったり、80年には深町さんとKEEP(和田アキラ、山木秀夫、富倉安生)というバンドも組みました。他に、松岡直也&ウィッシングや、本多俊之&バーニング・ウェイヴでもギターを弾いてます。
プリズムの音楽性の変化というものは?
グループの方向性の変化(大きな流れ)ということでいえば、ポリドール時代の3枚は、どっちかと言えばアル・ディメオラ、リー・リトナー、ラリー・カールトン的なんだけど、ワーナーに移籍してからは、イギリス方面の音、アラン・ホールズワース的な音に近づいていくんですね。ギターをわかってる人には、よくスタイルを変えたねって言われましたね。プリズムを一時活動休止していた時期もあって、その時は、井上陽水のツアーや本多俊之のプロジェクト・フォー(後藤次利もいたんだけど)とかをやってた。そうこうしてるうちに、木村万作が入ってきて、90年には環境シリーズ3部作を出すことになるんですね。あの頃は、自分も尖ってた時期で、毎回違うソロが弾きたいと思ってて、アドリブもどこに進んでいくのかわからない状態ですね。ちょっと前衛的すぎたかな・・・(笑)。
若手ギタリストへアドバイスを
ギターを上手く聴かせるためには、ミュートの技術を上げることです。両手でミュートするんですよ。音を濁らせないようにね。奏法的にはそれだけど、好きなものを弾きたいんだったら一生懸命練習するしかないですね。僕も必要に応じて練習してますよ。エンジンかかるのは遅いですけど(笑)。今って、曲を作る人が多様化してるから、平気で弾きづらいフレーズとか作ってくるんですね。指使いとか、練習しないとダメですね。自分は元々ロックから入ってるから、ロックの中にジャズのエッセンスが入ってるけど、若手の上手い連中というのは、最初からジャズの中にいるからね。自然にああいう風に弾けるのは羨ましい部分もあるね。
今年の活動予定は?
今年はデビュー30周年でもあるので、過去のメンバーを集めて、夏頃にイベントをやろうと思ってます。同窓会的なライブは2年前(DVD化されています)にもやってるんだけど、今年はその時これなかった連中、佐山雅弘、久米大作、青山純あたりも呼んでやろうかと思ってます。それと新作ですね。6月くらいに出す予定で進めてます。ソロ・ライブや、深町純とのデュオもやってるし、難波弘之、永井 敏己、アルフィーのところにいた長谷川浩二とExhiVisionというバンドも始めて、これはアルバムを出す予定です。他に、松岡直也さんとの新しいバンドもブルーノートでやるのが決まってるんで、これもありますね。
プリズムの曲でベスト3を挙げるとしたら
若い人たちにも是非聴いて欲しい曲っていうと、初期の頃の曲になるとは思うんだけど、自分が好きかっていうとね・・・。聴きやすいのは「モーニング・ライト」かな。バージョンはいろいろあるんだけど、自分で好きなのは「ウインド」って曲。「サイクリング」を好きっていう人が多いけど、今は演奏していない。曲としてあまり良く出来てないんだよね・・・。「プリズム」は最近、やるようになった。3人でやってます。ベースが岡田君に替わってからは、3人で何でも出きちゃう(笑)。自分で頑張ったなって思えるのは、「M.I.T.」ですね。環境シリーズ3部作の最後『A PERSONAL CHANGE』に入ってる。曲は複雑かな・・・。
和田アキラのギター・プレイはスリリングでエモーショナルで壮絶である。ここまで弾けるギタリストが日本にいたことを誇りに思う。2年ほど前にポリドール時代(現ユニバーサル)の初期4作がリマスタリング/紙ジャケでCD再発された。日本のフュージョンの歴史を作った名盤達である。これらのアルバムから選曲されたベスト盤『ゴールデン☆ベスト PRISM』が配信中なので、入門用に是非ダウンロードしていただければと思う。そこから更に奥深いプリズムの迷宮が見えてくるはずである。